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PC-9800シリーズ最後のデスクトップ PC-9821Ra43


本記事は管理人が PC-9800シリーズとして最後に新規購入したパソコンの PC-9821Ra43 を紹介する懐古記事です。
※管理人の主観がふんだんに含まれています。

1. アフターサポート向けとして登場した Ra43

PC-9800 シリーズの最後を飾った機種、PC-9821Ra43 です。
このモデルは2000年5月に発表され、同年6月に発売されました。

当時のNEC公式チラシには、「PC-9800シリーズの資産が生かせるクライアント PC」というキャッチコピーが掲げられており、その方向性を端的に表しています。

NECは1997年に PC-98 から PC98-NX への移行を発表し、PC-9800シリーズはコンシューマー市場から撤退しました。
しかし工場や研究機関などでは依然として PC-98 専用のプログラムやハードウェアが使われ続けており、Ra43 はそうした需要に応える形で登場しました。

いわば「最後の 98」として、過去の資産を守ることを目的としたモデルです。


2. 対応 OS

PC-9821Ra43は、アフターサポート機らしく、多様なOSに対応していました。
公式にサポートされていたのは以下のとおりです。

  • MS-DOS 6.2
  • Windows 3.1
  • Windows 95
  • Windows 98
  • Windows NT 3.51
  • Windows NT 4
  • Windows 2000
  • OS/2
  • NetWare
  • PC-PTOS

このように、当時の環境で幅広く利用されていた主要な OS を網羅していました。
なお、NEC公式サイトには現在も PC-9821Ra43 サポートマニュアル が公開されています。

3. 外観

PC-9821Ra43 は、従来の PC-98 シリーズと同様に横置きタイプのデスクトップ筐体を採用しています。
正面はシンプルなデザインで、CD-ROM ドライブやフロッピーディスクドライブを備えています。
背面には、PC-98 ならではのサービスコンセントも用意されており、当時のモニターなどに電源を供給できる仕様になっています。

CD-ROM ドライブとFDDを標準搭載。
従来の PC-98 シリーズにあったリセットボタンはなくなっており、少し寂しい印象があります。


背面には PC-98 ならではのサービスコンセントを装備。
ちなみに、このコンセントには定格電流が 3 A(消費電力約 180 W )を超える装置は NG です。

4. 主なスペック

Ra43の基本仕様を表でまとめます。

CPU Intel Celeron™プロセッサ 433 MHz
キャッシュメモリ(L1 / L2) 32 KB(CPU 内蔵)/ 128 KB(CPU 内蔵)
メインメモリ
(標準 / 最大)
32 MB / 256 MB (EDO / ECC 対応)
チップセット Intel 440FX PCIset
フロッピーディスク 3.5 型フロッピーディスクドライブ(3 モード対応)x 1
HDD 約 8 GB
CD-ROM 最大 24 倍速、平均 17 倍速
グラフィックチップ Trident社製 TGUI9682XGi
ビデオメモリ 2 MB
グラフィック表示 640 × 400ドット(16 色)、640 × 400 / 480 ドット(256 色)
グラフィック
アクセラレーター
640 × 480 ドット(256 色 / 65,536 色 / 1,677 万色)
800 × 600 ドット(256 色 / 65,536 色 / 1,677 万色)
1,024 × 768 ドット(256 色 / 65,536 色)
1,280 × 1,024ドット(256 色)
サウンド PCM 録音・再生機能
ネットワーク 100BASE-TX
拡張スロット(空き) PCI スロット × 2、汎用拡張スロット(C バス)x 3
電源 AC 100 V ± 10 %、50 / 60Hz、AC 電源出力コンセント(AC 100 V 3A、本体電源スイッチ連動)1個、ソフトウェアパワー OFF 対応
消費電力 約 39 W(最大約 182 W)

マザーボード

Slot1 対応のマザーボード。
CPU は Socket370 用をそのまま取り付けるのではなく、変換アダプタを介して Slot1 に差し込む方式です。
なお Slot1 の CPU は、はまるで「ファミコンのカセットをガチャッと差す」ような構造になっています。

CPU

マザーボードでも説明したように、Socket370 → Slot1 変換アダプタを使用してマザーボードに取り付けます。

マザーボード及び変換機から取り外した状態。
CPU は Celeron 433 MHz で、PC-9800シリーズとしては最高クロックを誇ります。
ただし同時期の DOS/V 機と比べると性能は低めな構成になっています。

グラフィックボード

グラフィックボードは Trident 社製 TGUI9682XGi 。2 MB です。

下写真の左側にシールが付いていて「<注意> 本ボードは抜かないでください」 と記載があり、このグラボを抜くと Ra43 が起動しなくなります。
昔から「抜いちゃダメボード」と呼ばれています。
このグラボは PCI スロットについているように見えていますが、マザーボードの延長のものらしいです。

内蔵 HDD

標準で内蔵 IDE 接続の HDD 8 GB を搭載しています。
今となっては驚くほど小さな容量です。


CD-ROM ドライブの下に HDD が収納されています。


手前に懐かしの IDE 端子とジャンパスイッチがあります。
写真真ん中にジャンパスイッチの位置の説明がありますね。

USB について

Ra43 には USB ポートは搭載されていません。
同時期の PC-98NX シリーズには標準で USB が搭載されていたため、NEC としては「Ra43 を含む MATE R シリーズは新規規格を追わず、延命用として割り切る」という方針があったと考えられます。
互換性を重視した Ra43 と、新技術を取り入れた NX ――両者の役割の違いがここからも見えてきます。

5. 使用感

管理人が思った使用感及び注意点を記載します。

MS-DOS ゲームで使うときの工夫

PC-98 の MS-DOS ゲームを楽しむにはいくつかの制約があります。

FM 音源が非搭載

従来の PC-98 シリーズでおなじみだったFM音源は、Ra43 には標準搭載されていません。
そのため、FM 音源を前提とした DOS ゲームをそのまま楽しむことはできません
ゲームをプレイしたい場合は、別途「PC-9801-86」( 86 音源)などのFM音源ボードを拡張スロットに取り付ける必要があります。

86 音源です。DOS ゲームはとりあえずコレつけておきましょう。

フロッピードライブが 1 基のみ

Ra43 は大抵フロッピーディスクドライブは標準で 1 基のみの構成です。
DOS 時代のゲームには 2 ドライブ( A: と B:)を前提としたタイトルが少なくなく、その場合は FDD を増設しなければプレイできませんでした。
ゲームを遊ぶ際には、意外と大きな制約となります。
もし 2 基にしたいのであれば「PC-9821RA-FD1」というフロッピーディスク増設キットを取り付けましょう。

「PC-9821RA-FD1」を取り付けた Ra43。

CPU クロックが速すぎる問題

Ra43 は、Celeron 433 MHz という PC-98 としては高クロックな CPU を搭載していました。
これが原因で、古い DOS ゲームでは「速すぎてプレイできない」や「音がならない」ケースが多発します。

いちおう回避策もあったりはします。
CPU キャッシュをアプリで無効化する方法で、この場合、体感的に 386 初期 ~ 486 初期クラス程度まで処理速度が落ちます。
タイトルによっては、この設定でプレイ可能になるケースがあります。

PC-98 版初代ぷよぷよ。何も考えず起動すると音がおかしいです。
CPU キャッシュをオフにすることで、おそらくちゃんと音がなっていると思います。

GDC クロック調整

Ra43 の GDC クロックは標準で 5 MHz に設定されていますが、システムセットアップメニュー設定で 2.5 MHz に下げると動作するゲームもあります。

システムセットアップメニューで変更しましょう。


このように、制約はあるものの工夫次第でゲームを動作させる余地は残されています

内蔵 IDE HDD 互換性

従来の PC-98 シリーズでは、4 GB や 8 GB を超える内蔵 IDE HDD を搭載すると起動時にハングアップしてしまう機種が多く存在しました。
しかし Ra43 ではこの問題が解消されており、大容量 HDD を接続しても起動不能になることはありません。
ただし、80 GB といった大容量ドライブを取り付けても実際に利用できるのは 8 GB までで、それ以上の容量は認識されません
つまり、「ハングはしないが、容量は切り捨てられる」 という仕様になっています。

80 G の HDD。これを取り付けても 8 G しか認識せず、72 G は使われません。
しかし、ハングアップしないのでHDDの容量を縮小する必要がなく他の PC-98 よりメンテが楽になります。

拡張性

Ra43 は拡張スロットは C バス 3 つ、PCI スロット 2 つと空きが多く、自由度の高い構成を組める点が特徴でした。
物理的には必要に応じてサウンドカードや SCSI ボードを増設でき、柔軟に対応できます。

一方で、PC-98 シリーズだけに限らず古いパソコン特有の INT(IRQ)資源の制約 があるため、物理的にスロットが余っていても、実際にはすべてを使い切ることは困難だと思います。

以下は Ra43 の説明書から”割り込みレベル”の抜粋です。

上の画像より標準では”INT2"と”INT41"の 2 つしか空いていない状態です。

色々な拡張ボードを取り付けたい場合は、システムセットアップメニューで 2nd CCU の機能を切って INT を空けるなど工夫して取り付ける必要があります。


6. Ra43 でおこる問題

たまに見かける Ra43 関連のトラブルです。

ゴム足の溶解による基板トラブル

マザーボード裏面に取り付けられているゴム足が、経年劣化によって溶け出すことがあります。
溶けたゴムが基板に付着すると、ショートや接触不良の原因となり、起動不能になる事例が多く報告されています。

基盤を支えるゴム足が…


溶けて基盤にこびりつきショート。

CD-ROM オーディオケーブルの紛失

Ra43 に標準搭載されている CD-ROM ドライブは、オーディオ出力用の専用ケーブルで C バス側に接続する仕組みになっています。
しかし、このケーブルは中古市場では欠品していることが多く、音楽 CD を直接再生したい場合には注意が必要です。

黄色で囲ったケーブル。

一部ソフトウェアの非互換

以下アプリはベクターからダウンロードしたバージョンのままでは動作しないと思います。

  • HSB for 98 Ver 3.7
  • VEM486

これらはそれぞれ、HSB は「差分パッチ」、VEM486は「VEM486 Version 1.31β13」を適用することで利用可能となります。


以上が、Ra43 でよく見られる代表的なトラブルです。


7. おわり

以上、PC-9821Ra43 の紹介と使用感でした。

1986年に登場した PC-9801VX(CPU 10 MHz)から、2000年にAthlon 1 GHz が登場するまで、わずか15年でCPUクロックはおよそ 100 倍に進化しました。半導体の進歩が最もめまぐるしかった時代にあったにもかかわらず、PC-98 は仕様を大きく変えることなく使い続けられた点が印象的です。

やがて MS-DOS から Windows へと主役が移り、PC97 / PC98 仕様の策定によって C バスをはじめとする 16bit バスの廃止などが提唱されると、PC-98 にとっては転換点を迎えることになります。しかし工場設備や計測機器など、依然として PC-98 を必要とする現場は少なくなく、NEC は延命用途に応えるかたちで継続販売を選びました。

一方で、最新技術を追い求める役割は PC98-NX に託され、PC-98 シリーズはここで世代交代を果たします。Ra43 はまさにその分岐点に登場した「最後の PC-98」として、当時を知る人に静かに記憶される存在となりました。

Ra43 は、次世代を担うためではなく、世代交代の役割を背負って送り出された、まさに特殊なモデルです。
そのため人知れず登場し、人知れず姿を消しましたが、その役割は決して小さくありません。
長く使われ続けたシステムや機器を支え、過渡期を生き抜いた最後の PC-98。
その存在は、いま振り返っても PC-98 の長い歴史を締めくくる象徴の一つといえるのではないでしょうか。